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遺伝子変異とプレシジョンメディシン【連載:遺伝子とがん】第5回

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提供元:P5株式会社
NEW公開日:2018.11.13

連載の最後として、これからのがん治療の方向性を示す「プレシジョンメディシン」について解説します。これまではがんと遺伝子、分子標的薬、コンパニオン診断薬や遺伝子パネル検査について解説してきましたが、そのベースにあるのもプレシジョンメディシンなのです(コンパニオン診断薬についてはこちら遺伝子パネルについてはこちらをご確認ください)。
連載目次はこちら

兆候や症状だけではなく原因に注目する医療

プレシジョンメディシンとは、日本語の訳としては「精密医療」となります。それぞれの人の遺伝子変異などを詳しく解析して、その結果に応じた適切な薬を処方するといった意味で説明されることがよくあります。いったいどのような医療かを知るために歴史を振り返ります。

プレシジョンメディシンの前段階の動きは、1990年代から2000年代に注目を集めた「個別化医療」です。個々人の病状や体質に合った治療を行おうという医療で、「テーラーメイド医療」などとも呼ばれていました。

個別化医療は進化して、より最先端の分子レベルの情報を診断や予後の推定、治療に生かすようになっていきました。その先に出てきた考えがプレシジョンメディシンの考え方なのです。

2011年に、米国の国立研究評議会がレポートを出し、「プレシジョンメディシン」の言葉をタイトルに掲げて推奨。これをきっかけに医療界でも大きく注目されるようになったのです。

このレポートで示されたのは、病気の分類の変化です。「100年近く、病気は兆候や症状に基づいて分類されてきました。治療がそうした兆候や症状に対して行われていた時代には良かったものの、現在はそぐわなくなってきた」と指摘しました。

病気の原因が遺伝子の研究などにより次々とはっきりと分かるようになったからです。むしろがんやHIVのように兆候や症状がはっきりしないものも珍しくありません。もはや兆候や症状で病気をとらえるのではなく、病気の原因を突き止め、そこに対してピンポイントで治療する考え方が求められるようになってきたのです。

病気の原因を突き止めて治療する典型的な例の一つが、連載の第2回で見た分子標的薬。患者さんのがんが持つ異常たんぱく質を調べて治療することにより、治療効果を飛躍的に高められることが明確になりました(連載の第2回はこちらから)。

米国国立研究評議会は、病気の分類をより現代に合ったものに変えて、研究や治療を推進していくべきと解説。プレシジョンメディシンへと舵を切るべきだと推奨しました。その後、有力医学雑誌などもこのレポートに注目して批評を展開。さらに2015年1月に、米国のオバマ前大統領が、プレシジョンメディシン・イニシアチブを打ち出し、その翌年「キャンサー・ムーンショット」と呼ばれるがん治療の研究を推進する政策を発表。その後、年5億~6億ドルの公的予算が拠出されるようになりました。

こうした米国の動きに引っ張られる形で、世界的にもプレシジョンメディシンは注目されるようになったのです。

「がん治療のこれから」を指し示す言葉

プレシジョンメディシンの考え方の通り、がんの治療も原因を突き止め、その原因に対応した治療を行うようになってきています。病気の原因を突き止める方法は、遺伝子解析に限らず、血液検査や画像検査などさまざまな手法を含みますが、特に重要視されているのが遺伝子解析です。

連載の第1回で触れましたが、がんの原因についての情報をもたらしてくれる重要な要素が遺伝子変異となります。がんは遺伝子に変異が起こることで発症します。ですから遺伝子変異の有無が原因に関係してくるのです(連載の第1回はこちら)。その上で、第2回で見たように変異した遺伝子に対応する異常たんぱく質を狙った分子標的薬が存在しています(連載の第2回はこちら)。

遺伝子変異には数多くのパターンがありますから、そのパターンを調べたうえで確実な治療を行うことが重要です。第3回で解説したコンパニオン診断が担う役割となります(第3回はこちら)。

遺伝子変異のパターンを一度に調べる技術が、第4回で見たような遺伝子パネル検査。がんの原因を突き止めやすくなることで、がん治療の成績はより高められるようになります(第4回はこちら)。

がんの原因に対して治療をする考えはますます強まっているわけです。

プレシジョンメディシンと言われると分かりづらいかもしれませんが、これまでの連載を踏まえた上で、その考え方を知ると、これからのがん治療はまさにこの新しい言葉が意味している方向に進んでいくことが理解できます。

連載:遺伝子とがん

第1回 がん治療の今を考えるときに欠かせない問題、遺伝子とは何か?
第2回 がんにおける遺伝子変異と分子標的薬
第3回 コンパニオン診断とは何か?がんの治療をより最適に
第4回 遺伝子パネル検査とがん治療
第5回 遺伝子変異とプレシジョンメディシン