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がん治療の今を考えるときに欠かせない問題、遺伝子とは何か?【連載:遺伝子とがん】第1回

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提供元:P5株式会社
公開日:2018.2.23

「がんを引き起こす遺伝子」「遺伝子に変異が起こると細胞はがん化する」
がんの話になると、遺伝子という言葉を聞くことが当たり前になってきています。でも、なぜがんを考えるときに、遺伝子を考えないといけないのでしょうか。
これから新たに、遺伝子とがんとの関係を連載でお伝えしていきたいと思います。
第1回では、まず「遺伝子とは何か」の基本から、歴史もひもときつつ確認していきます。

長らく解けなかった謎

「遺伝子の正体は何か」。今では当たり前のことになっていますが、歴史を振り返ると長らく謎でした。
もともと親から子に遺伝が起こっていることは考えられてきたのですが、どのような仕組みがその背景にあるのかは、分かっていなかったのです。

植物の実験から「遺伝子」というものがあるらしいと分かり始めたのが1800年代後半のことです。
種の形や色、植物の高さといった特徴が、親子でどのように受け継がれるか調べたところ、明らかに親の特徴が一定の法則で受け継がれていくと確認できたのでした。例えば、ある特徴は子供の4分の1だけに現れるといった現象が確認できたからです。さらに、動物でも同じように遺伝が起こっていると確認できました。
ですが、遺伝の正体が何であるのかについては、半世紀ほど後の1940年代まで分からなかったのです。

誰もが驚いた「正体はDNA」

身体を作っている細胞の中には、たんぱく質がたくさん存在しています。細胞の成分のほとんどがたんぱく質なのです。酵素などのたんぱく質は、身体のさまざまな働きを担っていると分かってきていました。
ですから、遺伝もたんぱく質が担う可能性が考えられていました。DNAだとは誰も思っていなかったのです。DNAはすでに見つかっていましたが、たんぱく質を支える成分と考えられていたのです。

遺伝の秘密を解くきっかけの一つは、細菌の研究でした。
病原性のある細菌を殺し、病原性のない細菌に混ぜてみると、病原性のなかった細菌が病原性を持つようになったのです。何かが細菌の中に入ったものと考えられました。
この発見からおよそ10年を経て、その入っていたもの、細胞の中にあって特徴を決めているものが「DNA」だと分かりました。
全く誰も予想していなかった発見でした。
もともと大きな働きはないと思われていたものだったからです。
今でこそ遺伝子の正体がDNAだということは、当たり前のことになっていますが、最初は、誰もが驚くような関係だったわけです。
徐々に、細胞の特徴を決めるだけではなく、遺伝情報を伝えているのもDNAであると分かっていきました。その発見の経緯について確認していきます。

DNAはコピーされるという発見

1953年に、ワトソンさんとクリックさんという2人の研究者が、DNAは「二重らせん」の形であることを発見しました。DNAの鎖が2本並ぶようにからみ合って、らせん階段のようにつらなっていることを突き止めたのです。

DNAの中には、「アデニン(A)」「チミン(T)」「シトシン(C)」「グアニン(G)」という4種類の「塩基」と呼ばれる分子が含まれています。この分子の連なりにおいては、片方の鎖にアデニンがあると、もう一方の鎖にはチミン。シトシンにはグアニンという風に決まった組み合わせでからみ合っていることが分かりました。

2本の鎖の間はランダムに並んでいるのではなかったことから、遺伝情報を受け継げることが見えてきたのです。一方が型になってコピーできるのではないかと考えられたからでした。
遺伝の謎が最終的に解かれたのです。DNAはこの対になる性質から、複製され、細胞分裂をするときに受け継がれるのです。親から子にもこの仕組みにより遺伝情報は受け継がれていくのです。
遺伝は細胞の中のたんぱく質が受け継がれていると考えられたこともありましたが、正体はDNAだったのです。

DNAから作られるたんぱく質

次に注目されたのは、遺伝子とたんぱく質との関係でした。
DNAの正体がつかめる前から、遺伝子とたんぱく質には関係があると考えられていました。
遺伝の正体がDNAと分かったことで、DNAの情報に基づいて、細胞の働きの多くを担っているたんぱく質が作られていると想像されたのです。
ですが、やはりここでも、どうやって作られるかは分かりませんでした。DNAは細胞の中心にある「核」の中に存在するのですが、たんぱく質は核の外で作られていると示されていたからです。

第2の情報保有分子があると考えられ、そこで見えてきたのが、4種類ある別の分子「RNA」というDNAとよく似た分子でした。
こうして分かってきたのが、DNAから、いったんRNAによる鎖を作り、このRNAをもとにアミノ酸をつなげていくというプロセスでした。
DNAも、RNAも、それを構成する塩基は4種類しかないのですが、それらが3つ組み合わさることで3文字の暗号となり、20種類のアミノ酸と対応してつなぎあわせていくのです。3文字の暗号には、読み込み開始や終了の信号も含まれていました。この仕組みによってDNAの情報に基づいてたんぱく質は作り出されるのです。
3文字の暗号がどのようにアミノ酸と対応するかが完全解明されたのは1966年でした。

DNAの変化とがん化

DNAの並びは変化することがあります。1%以上の人で見られる変化を「多型(たけい)」、1%未満の人で見られる変化を「変異」と呼び分けする考え方があります。

がんとは、このDNAの並び方の異常によって起こってくるのです。例えば、DNAが複製されるときにエラーが起きたり、DNAが壊れたりして発生するのです。
本来はアデニンのところが、チミンやシトシン、グアニンに変化することで、その遺伝子からできてくるたんぱく質は変化します。このことが細胞の性質を大きく変えることがあるのです。
エラーによっては影響がない場合もありますが、中には、正常なコントロールを逸脱して増殖を続ける性質につながったり、他の場所を占領しようとする性質をもったりすることがあります。
この場合、正常な細胞はがんへと変化するのです。

DNAのエラーを起こすものはさまざまです。例えば、そのうちで予防可能と考えられているのが、喫煙、飲酒、肥満、運動不足、果物や野菜の不足、感染症、大気汚染、日焼けなどです。

DNAを知ることはがんを知ること

人のDNAは約30億ものアデニン、チミン、シトシン、グアニンがつながったものから遺伝情報を形作っています。その一カ所が異なるだけでも細胞の性質は変化することもありますし、もっと複数にわたる複雑な変化をする場合もあります。
その遺伝子とそこから起こる細胞の変化を知ることは、がんがどのような性質を持つかを知るため、がんの手ごわさ、薬の効きやすさを知るためにも有効となります。
だからこそ、がん治療の今を知るためには、遺伝情報を調べることが求められているのです。

  • 参考文献1
    JD Watson et al, 中村桂子監訳 『ワトソン遺伝子の分子生物学 第7版』 東京電機大学出版局. 2017.
  • 参考文献2
    デニス・L・カスパーほか編 ,福井次矢ほか監修 『ハリソン内科学第5版』 メディカル・サイエンス・インターナショナル. 2016.

連載:遺伝子とがん

第1回 がん治療の今を考えるときに欠かせない問題、遺伝子とは何か?
第2回 がんにおける遺伝子変異と分子標的薬
第3回 コンパニオン診断とは何か?がんの治療をより最適に
第4回 遺伝子パネル検査とがん治療