がん治療の最新情報を発信します

がん治療の今

もう1つの免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」
【連載:免疫とがん】第5回

Twitterでシェア Facebookでシェア
提供元:P5株式会社
公開日:2017.12.14

前回は日本生まれの新規抗がん剤「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)を取り上げましたが、今回はオプジーボのライバル薬である「キイトルーダ」(一般名:ペムブロリズマブ)について解説します。
連載目次はこちら

キイトルーダはなぜオプジーボのライバル薬と呼ばれているのでしょうか。
それは、両製品ともほぼ同じ作用機序(薬が有効性を発揮する仕組み)を持っているからです。
どちらも、免疫チェックポイント阻害薬という同じタイプの抗がん剤です。

この連載では既に何度か免疫チェックポイントに触れていますが、今回も簡単におさらいしておきましょう。

免疫機構とは、体内に入ってきた異物を攻撃、排除するためのものです。
ただし、その働きが過剰になり異物でない正常な細胞を攻撃してしまわないように、免疫を抑制する仕組みも組み込まれています。
がん細胞の中にはこの仕組みを利用して、免疫からの攻撃を逃れているものがあることが分かってきました。

もっと具体的に説明すると、がん細胞の表面に発現している「PD-L1」という物質が、免疫細胞の表面の「PD-1」という物質と結合すると、免疫細胞の攻撃力が抑制されてしまうのです。
この仕組みを、免疫チェックポイントと呼んでいます。

免疫とキイトルーダとの接点は「PD-L1」

がんの研究者たちは、PD-1とPD-L1の結合を何らかの形で邪魔すれば、免疫細胞がその攻撃力をそがれることなく、がん細胞を排除するようになると考えました。
この研究戦略に基づき、小野薬品工業と米国のメダレックス社(2009年にブリストール・マイヤーズ・スクイブ社が買収)が創製したのが、PD-1に結合して免疫チェックポイントを阻害するオプジーボ(日本での承認取得は2014年7月)だったのです。
オプジーボは臨床試験で、悪性黒色腫や非小細胞肺癌、腎細胞がんなどにおいて、患者さんの生存期間を延長できることを証明し、発売後はたちまち大型製品に成長しました。

オプジーボの登場により、免疫チェックポイントを阻害することが、がん治療に非常に有効だと示されたわけですが、がん研究者は当然、次のように考えます。
「PD-1ではなくPD-L1に結合する物質も、免疫チェックポイントを阻害し、抗がん剤になるのではないか」。
このようなコンセプトに基づいて開発されたのが、キイトルーダなのです。

悪性黒色腫と非小細胞肺がんに使用

キイトルーダを開発したのは、米国のメルクという大手製薬企業です。
日本では同社の日本子会社であるMSDが悪性黒色腫の治療薬として2017年2月に販売を開始しました。
オプジーボの発売が2014年9月ですから、約2年半、遅れたことになります。

現在、キイトルーダは日本において、悪性黒色腫の他に、非小細胞肺がんでの使用が認められています。
では、キイトルーダはどの程度の有効性を期待できるのでしょうか。

悪性黒色腫では、「ヤーボイ」という既存の抗がん剤と比較した臨床試験の結果が公表されています。
この試験では被験者を、キイトルーダを3週間の間隔で投与した群、キイトルーダを2週間の間隔で投与した群、ヤーボイを投与した群に振り分けています。
主要評価項目(効果を調べるために最も重要視している指標)は無増悪生存期間(抗がん剤の投与により縮小した腫瘍が、再び増殖を開始するまでの期間。PFSと略します)です。

PFSの値は、ヤーボイ群では2.8カ月だったのに対し、キイトルーダ3週間の間隔投与群では4.1カ月、キイトルーダ2週間の間隔投与群では5.5カ月でした。
つまり、キイトルーダを投与した群の方が、長い期間、がんの進行を抑制していると解釈できます。
また、被験者の生存期間を比較した結果でも、キイトルーダ投与群の方が、生存期間が統計的有意差を持って長いことが示されています。

非小細胞肺がんの有効性については、プラチナ製剤を含む化学療法剤を投与された群と、キイトルーダを投与された群の有効性を比較した臨床試験の結果が公表されています。
化学療法群のPFSが6.0カ月だったのに対して、キイトルーダ群では10.3カ月でした。

海外では胃がん、頭頸部がんなどでも利用可能

キイトルーダの開発が先行した海外では、悪性黒色腫、非小細胞肺がんの2種類のがんに加えて、頭頸部がん、胃がん、膀胱がん、ホジキンリンパ腫などにも使用が認められています。
高度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復欠損(dMMR)と呼ばれる遺伝的な特徴が確認された場合、がんの種類によらずに使用が可能となっています。
今後、日本でも海外並にキイトルーダの適応拡大が進むとみられています。

一方で、米国では多発性骨髄腫を対象とした臨床試験が、規制当局の命令により中止させられるという事態が発生しています。
キイトルーダ投与群で、死亡率の上昇が確認されたからです。
また、いくつかの臨床試験では、期待された結果を得られなかったものもあります。

さて、冒頭で、オプジーボとキイトルーダは同じタイプの抗がん剤であると書きました。
では、オプジーボとキイトルーダのどちらを選んだらいいのでしょうか。
これについては、現時点でははっきりしたことは専門家でも判断は難しいでしょう。
両製品を直接的に比較した試験がまだ実施されていないためです。
しかし、今後、各種のがんについて、臨床データが蓄積されていく中で、両製品の使い分けるための基準が、はっきりとしていくでしょう。

  • 参考文献1:新薬創製(日経BP社、2016年)
  • 参考文献2:キイトルーダ添付文書

連載:免疫とがん全6回

第1回 免疫の基本、がん治療に関わる「Tリンパ球」と「Bリンパ球」とはいったい何で、その役割とは?
第2回 がんに対する免疫の働き
第3回 免疫チェックポイントとは何か
第4回 免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」とは何か
第5回 もう1つの免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」
第6回 キムリアの登場、CAR-T療法(キメラ抗原受容体発現T細胞療法)が米国で承認に